「楽しい時間」が積もった人生の砂時計を持ちたい【こばかなインタビュー】

creiveの『今日、なんか嫌なことあった?』は、業界で活躍している“あの人”へのインタビューを通じて、仕事で感じるモヤモヤとの向き合い方を探るインタビュー連載です。「自分っていつまでも成長しないな」「人間関係が辛くてしんどい」こんな風に思い悩みながら日々を過ごしている人へ。今回お届けするのは、こばかなさんの言葉です。

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憧れの仕事に就いたはずなのに、なんだか違和感を感じる毎日。転職を考えてもみるけど、周りからは「憧れだった職場から離れるなんてもったない!」と反対される。やっぱり今のままがいいのかな?でも……。

「今日も仕事で嫌なことがあったな」

あなたが抱えるその悩み、いまや大活躍中のあの人たちも経験してきているんです。今日お話を伺うのは、株式会社THE COACHの代表として活躍するこばかなさん。現在コーチ及び経営者として活躍し、芯の通った印象があるこばかなさんですが、実は飽きっぽくて流されやすい性格なんだそう。

こばかなさんのお話から、仕事のモヤモヤを吹き飛ばすヒントを探してみませんか?

<こばかなさんプロフィール>

THE COACH 代表。デザイナーとして株式会社DeNAに入社後、株式会社THE GUILD、フリーランスを経て株式会社THE COACHを創業。キャリアとエグゼクティブを中心にコーチングの実績400人以上。国際コーチング連盟認定コーチ(ACC)。開講以来、講師として150名以上のトレーニングを担当。Twitterやnoteでコーチングについて発信しており、SNS合計フォロワー数6万人以上(2021年3月時点)。

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「人を感動させるもの」が作りたくて、デザイナーを目指した


ーーこばかなさんは現在コーチングスクールの代表として活動されていますが、以前はスマートフォンのデザインを手掛けるUIUXデザイナーをされていましたよね。UIUXデザイナーになったきっかけを教えていただけますか?

実は私、もともとは漫画家になりたかったんです。小さい頃から漫画が大好きで「人を感動させるものを作れるってすごいな」と憧れを抱いていました。でも、漫画家になるのはすごく狭き門なんですよね。絵を書いたり何かを作ったりすることは昔から好きだったので、漫画家は無理でも何かしらモノを作る人になりたいなと思い、二浪の末に美大に入りました。

美大に入ってすぐの頃は、有名ブランドのロゴデザインや広告などを手掛ける佐藤可士和(※)さんという方に憧れて、アートディレクターを目指していたんです。

※佐藤可士和:日本を代表するクリエイター。主な仕事に国立新美術館、東京都交響楽団のシンボルマークデザイン、ユニクロ、セブン-イレブン、楽天グループ、今治タオルのブランドクリエイティブディレクションなど。

ーー広告や宣伝のデザインを手掛けるアートディレクターと、スマートフォンアプリのデザインを手掛けるUIUXデザイナーの仕事は、同じデザイナーとはいえかなり異なりますよね。そこからどんな経緯でUIUXデザイナーを目指し始めたのでしょうか?

アートディレクターとして一花咲かせるのも、とても狭き門だと分かったからですかね。

一方で、UIUXデザイナーはスマートフォンの普及に伴ってどんどん需要が高まっている職業でした。また、まだ新しい分野だから、若手のうちから活躍できる可能性が高かったんですよね。「この分野なら、私も若いうちからデザイナーとして第一線で活躍できるかもしれない」と方向転換し、大学卒業後は株式会社DeNAにUIデザイナー職として入社しました。

ーーどうして「若いうちから第一線」で活躍することに重きを置いていたのでしょうか?

小学生の頃、本気でプロのテニス選手を目指していたんです。海外の試合にも参加したことがあるくらい。そのときに「やるからには上を目指す」という考えを叩き込まれました。

また、私ものすごく飽き性で。何をやっても長続きしないんですよね。

ーーとても意外です!こばかなさんはとても継続力がある方というイメージでした……。

全然(笑)。プロを目指していたテニスも中学生で辞めてしまったし、学生の頃は15回もアルバイトを変えたし。成長している実感だったり、楽しさだったりが味わえないとすぐに飽きてしまうんです。

だから、アートディレクターのように日の目を見るまで時間がかかりそうな仕事は私には向いていないと思い、卒業してから数年……つまり若いうちから活躍できそうな場を探していたんですよね。

流されやすい性格だから、流されたい人と一緒にいる


ーーDeNAを退社後は、株式会社THE GUILDに入社していますよね。入社1年での大企業からスタートアップへの転職に、迷いや葛藤はなかったのでしょうか?

THE GUILDには、UIUXデザインの第一人者と言われる深津貴之さんがいました。また、学生時代にインターンでお世話になったことがあり、会社の雰囲気もよく知っていたので私自身に迷いはなかったのですが……。親や友人からは「せっかくいい会社に入ったのにもったいない」と言われましたね。

ーーそういった声に対して、こばかなさんはどう対処していったのですか?

私自身はすごく流されやすい性格なので、自分とは反対の意見を聞いていると「もしかしてそっちが正しいのかも?」と迷いが生じてくるんです。だからこそ、同じように大企業から名もない企業への転職を考えているような、自分が流されたい方向に向かっている人と話す機会を作っていました。

ーー「飽きっぽい」「流されやすい」など、自分の性格をきちんと把握しているからこそ、そのときどきで最善の選択ができているように思います。

確かにそうかもしれません。でも、たくさん失敗もしてきています(笑)。周りの子よりちょっと上手だから、と持ち上げられてプロのテニス選手を目指したけど、私自身はそこまでのモチベーションを保てなくて途中で挫折してしまったし、人を感動させるクリエイティブな仕事がしたかったのに、論理的に設計を組み立てるデザインの仕事を始めたり。

ーーご自身がUIUXデザイナーのキャリアを築いていくことに違和感を感じていたのですか?

若手世代にも活躍の場があるUIUXデザイナーを選んだから、“デザイナーのこばかなさん”といろんな人に認識していただけるようになりました。そういう意味ではこの道を選んでよかったと思いますが、「UIUXデザイナーが自分の心からやりたかったことだったか」と問われると違うかもしれません……。やりたいことではなくて、自分ができそうなことで道を選択してしまったために、途中でモチベーションを保てなくなってしまったのですよね。

私はこの先どうしていきたいんだろう?と悩んでいたときに、コーチングと出会いました。

ーーコーチングを始めてからは、どんな変化がありましたか?

最初はただただ楽しくて、周りの人を捕まえては狂ったようにコーチングをしていましたね(笑)。人それぞれに課題があって、その課題にコーチも一緒に向き合って……。回数を重ねる毎に、コーチングの技術はもちろん、自分自身の思いを言語化するスキルもどんどん身に付いていく実感があって。気付いたら400人以上にコーチングをしていました。

最初はコーチングを仕事にするつもりはまったくありませんでした。でも、楽しい気持ちだけでひたすら続けていたら、「こばかなさんにお仕事としてコーチングを依頼したい」とおっしゃっていただくことが増えてきて。キャリアに限界を感じ始めていたデザイナーから、コーチへと転身することを考え始めたんです。

つらいことだらけの場所よりも幸せを感じられる場所へ

ーーこばかなさんといえば、Twitterフォロワー数4万人を超えるインフルエンサーとして認識されている人も多いかと思います。SNSに力を入れようと思った理由はなんだったのでしょうか?

私、美大卒のわりにはあまりイラストに自信がなくて……。イラストの練習をしようと思って、議事録などを絵や記号を使って一枚の紙に分かりやすくまとめる“グラフィックレコーディング”を発信し始めたのがきっかけです。

週に3〜4回投稿していたら、2カ月でフォロワーが2万人まで伸びて驚きました。

ーーフォロワーが増えてから、周囲の反応に変化はありましたか?

これまでは「THE GUILDの深津さんの隣で仕事をしている若手の人」だったのが、「グラフィックレコーディングのこばかなさん」と認識してもらえるようになりました。中には、私がTwitterに投稿したものを印刷して、壁に貼ってくれているクライアントさんもいてありがたかったですね。

ただ、うれしかったことも多かった一方、SNSが原因で苦しんだこともありました。

ーーSNSで苦しむ?どんなことがあったのでしょうか……?

デザイナーとしてのキャリアはこれから、というところでSNS上で有名になってしまったため、実力以上の評価を受けることが多々あって。SNS上で、「こばかなは大した実力もないのになんでこんなにチヤホヤされているんだろう」という声を見かけることが日に日に増えていったんです。

それが、デザイナー時代だけでなく、コーチとしても同じことが起きてしまって。

ーーコーチになってからはどんなことがあったのですか?

コーチングを学び始めたときには、すでにフォロワーが数万人いました。その状態で「コーチング楽しい!」と投稿しまくっていたら、一部の方々から「こばかなはコーチングの第一人者」と認識されるようになってしまったんですよね。

実際にはもっと優秀で経験豊富なコーチは世の中にたくさんいるのに、駆け出しの私がフォロワー数を理由に“すごいコーチ”に見られてしまう……。その状態は、コーチング業界としてもよくないな、と思ったんです。

もっと優秀なコーチや、コーチング自体にスポットを当てたい。きっかけは“インフルエンサーのこばかな”でもいいから、コーチングに興味を持ってくれる人が増えるといいなと思い、コーチングスクールの運営を始めたんです。

ーーなるほど。起業のきっかけはこばかなさんの葛藤からくるものだったのですね。現在は、そういった厳しい声とはどう向き合っているのでしょうか?

傷つくこともありますが、私は息を吐くようにSNSをしてしまうタイプの人間なので、SNSから離れることはできなかったですね(笑)。でも、コーチに転向したことで、デザイナー時代に受けたような声はここ最近は見かけなくなりました。

つらいことがあったら、その原因から距離を取れば解決するはずなんです。私の場合は、デザインから離れることで心無い声からも距離を取ることができました。ちょうどデザイナーとしてのキャリアにも悩んでいて、厳しい声も受けいて……。つらいことだらけなら、無理に向き合わなくてもいいと思っています。

例えば、私学生時代飲食店でアルバイトをしていたのですが、全然仕事ができなかったんです。間違ったメニューをお客様に出したり、接客がうまくできなかったりして周りに迷惑をかけまくっていました。でも、デザイナーやコーチとしては一定評価をいただけているので、本当に適材適所だなと思うんです。自分の身を置く環境によって人生の幸福度は180度異なるので、幸せを感じられる環境で過ごせるといいいですよね。

「楽しい」と「悔しい」へのアンテナを張る

ーーこれまでのお話で、こばかなさんは「好き」の感度がすごく高いなと感じました。なぜそこまで「好きなこと」への思い入れを強く保てるのでしょうか?

「楽しい」と思える時間を長く過ごしたいからですかね。お金や肩書は後から取り戻せるかもしれないけど、時間は不可逆的なもので、絶対に取り戻せないじゃないですか。だから「お金のために」とか「周りからの評価のために」といった理由でつらい時間を過ごすよりも、自分が心から「好き」「楽しい」と思える時間を過ごす方が価値があると思うんです。

私は人生全体の時間をよく「砂時計」でイメージしています。人生で与えられた時間が「楽しい時間」と「楽しくなかった時間」に分かれて積もっていく砂時計を持っているんです。自分に与えられた砂の数は決まっているから、つらい時間が多ければ「楽しい時間」は減ってしまう。逆に言うと、「楽しい時間」が多ければ多いほどつらい時間は少なくなるんです。だから、私はいかにこの「楽しい時間」の砂を増やせるかに価値をおいているんですよね。その楽しい時間を作るのが「好きなこと」だと思うんです。

ーー自分の「好き」が分からなくて悩んでいる方も多い中、こばかなさんはどうやって見つけていますか?

好きなものが分からない状態って、難しく考えていることが多いんですよ。好きなんだけどお金にならないとか、好きなんだけど周りからの評判が良くないとか。そうすると、フィルターがかかって自分の気持ちが分からなくなるんですよね。

例えば私の場合は「漫画が好き」「美術の授業が好き」といった理由でデザイナーを目指したし、それくらいカジュアルに考えていいはずなんです。

それでも「好き」だとハードルが高いという人は、「楽しい」で考えるといいかもしれません。

ーー「楽しい」で考える?具体的に方法を教えてください!

過去に楽しかったことを考えるんです。ポイントは、年齢を横軸に書いて、縦軸に楽しかったこととその「楽しかった度」を記載していくこと。そうすると、自分がいつ、どんなものでどのくらい心を動かされたのかが可視化できるようになります。

他にも、「あなたは10億持っています。これから何をしたいですか?」などの仮定をする問いを定期的に自分に投げかけるのもおすすめです。お金の制約を取り払うと無邪気に考えられるようになるので、自分の心の奥の「好き」に気づきやすくなりますよ。

あとは……「悔しい」気持ちを深堀りするのもおすすめです。

ーーなぜ「悔しい」気持ちの深堀りが「好き」の発見につながるのでしょうか?

過去にTwitterにも投稿したことがあるのですが、私の場合は水泳選手が金メダルとっても「すごいなぁ」って思うだけだけど、いい漫画を読むと「悔しいなぁ」って思うんですよね。

悔しい気持ちって、分解すると「何に興味があるか」「何を大切にしているのか」がベースにあるんです。だから、「悔しい」って気持ちが顔を覗かせたら、ぜひその思いを大事にしてあげてほしいですね。

ーー最後に、デザイナーからコーチ、そして経営者とキャリアチェンジを続けるこばかなさんですが、今後の新たにチャレンジしてみたいことはありますか?

私がデザイナーを目指し始めたきっかけは、「人を感動させるものを作りたい」という気持ちからでした。今でもそれは変わっていません。デザイナーのときも、コーチのときも、そして経営者となった今も肩書は「クリエイター」だと思っています。

会社のビジョンを作ったり、コンセプトを企画したり……経営者って究極にクリエイティブな仕事だと思うんですよね。ベースにある思いを抽象化すると、実はいろんな職業に転用できるんです。だから飽きっぽい私にも続けられる(笑)。

今の仕事だけではなくていつかは、漫画家を目指したいですね。3年毎に新しいことを始めたら、死ぬまでに少なくともあと10個くらいは何かできるはず。そう考えると、ワクワクしますよね。

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第一回:「人生はもう終わり」な私を助けてくれたのはツッコミ星人だった

第二回:“心地よさ”を突きつめると理想のキャリアが見えてくる【TENGA広報 西野芙美インタビュー】

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