“心地よさ”を突きつめると理想のキャリアが見えてくる【TENGA広報 西野芙美インタビュー】

creiveの『今日、なんか嫌なことあった?』は、業界で活躍している“あの人”へのインタビューを通じて、仕事で感じるモヤモヤとの向き合い方を探るインタビュー連載です。「自分っていつまでも成長しないな」「人間関係が辛くてしんどい」こんな風に思い悩みながら日々を過ごしている人へ。今回お届けするのは、株式会社TENGAの広報担当、西野芙美さんの言葉です。

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理想や熱い思いを持って社会人になったけど、なんだか想像していた仕事と違う。入社してまだ1年も経っていないのに「自分にはもっと合う仕事があるんじゃないか?」と転職サイトを眺める毎日。でも、自分に向いている仕事っていったい何……?

「今日も仕事で嫌なことがあったな」 

あなたが抱えるその悩み、いまや大活躍中のあの人たちも経験してきているんです。今日お話を伺うのは、株式会社TENGAで広報として活躍する西野芙美さん。周りの言葉に左右されず、自分らしいキャリアを築き上げている印象の西野さんですが、20代の頃は仕事でモヤモヤすることも多かったんだとか。

西野さんのお話から、仕事のモヤモヤを吹き飛ばすヒントを探してみませんか?

<西野芙美さんプロフィール>

早稲田大学文化構想学部を卒業後、出版社での勤務を経て、株式会社TENGAに広報として入社。2021年3月より国内マーケティング部 部長。TENGAグループが展開するブランド「TENGA」「iroha」「TENGAヘルスケア」の広報宣伝活動を統括。

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最初の会社を10カ月で退職したのは「無理をしているサイン」に気付いたから

 

ーー西野さんは出版業界を志望されていたと伺っていますが、ファーストキャリアとして選択したのは人材業界だったそうですね。なぜ人材会社に入社したのでしょうか?

出版業界って中途採用の方が多くて、教育体制も整っていないところが多いんです。学生時代に出版社でアルバイトをしていた経験からその環境を知って「いずれは出版社で働きたいけど、新入社員として入るのはちょっと怖いな」と思い、まずは社会人としてのスキルが短期間で身につきそうな人材業界で修行を積むことにしました。でも人材会社も10カ月で辞めてしまいましたね……。

ーーなぜ短期間で辞めてしまったのでしょう?

人材会社では営業をしていたのですが、ひたすら数字を追い求めるスタイルがどうしても私には合わなくて。がんばってノルマを達成したら、その次はもっと高いノルマを課せられる。与えられたノルマをどんどんクリアしていくことで能力が開花していく人もいると思うのですが、「この数字が持つ意味ってなんだろう?」と立ち止まって考えてしまう私には向いていなかったんです。

ーー辞めるとき、周りからは何か言われましたか?

退職を検討していることを親戚に相談したら、「最低でも3年は続けたほうがいい」と言われましたね。当時の私は大学を卒業して数カ月しか経っていなかったので、大人の意見が正しいのかと思い、退職を悩んだのですが……。そうこうしているうちに、「無理をしているサイン」が表れはじめたんです。

ーー「無理をしているサイン」とは、どのようなものなのでしょうか?

私の場合は、「今、無理をしているな」というときには、読書量が極端に増えるんです。

子どもの頃から読書が好きでした。本の世界って、いろんな世界観の中にいろんな価値観を持つ人が登場してきて、自由じゃないですか。私は子どもの頃から、集団の中にいてもどこか浮いてしまう“変わり者”だったので、本の世界に没入することで「人と違っていても大丈夫」と安心感を得ていたんです。

だから、現実がつらいときほど本に逃げ場を求めてしまうんだと思います。人材会社で働いていたときは、日々忙しいにもかかわらず、休日は1日に500ページとか読み進めていました。その状態がしばらく続いたので、「あ、私って今、現実逃避するくらいしんどいんだな」と思ったんです。

心の悲鳴に気付いてからは「もともと出版社に行く前に修行のつもりで入社した会社だったし、修行期間が短縮されたと思えばいいや!」と思い切って転職活動を始めました。

ーーその後、西野さんは無事に出版社に転職されていますね。学生時代から憧れていた仕事に就いて、当時の西野さんはどういう心境だったのでしょうか?

とにかく毎日楽しかったです。大好きな本に囲まれて、仕事もやりがいがあって、仲間にも恵まれて。

出版社で営業として書店めぐりをしていたとき、私の準備不足で店長さんをすごく怒らせてしまったことがあるんです。店長さんの信頼を取り戻すために、こまめにアポを取って状況を伺ったり、書店の売上や客層を徹底的に分析して企画を提案したりして。そうしているうちに店長さんも信頼を寄せてくれるようになってきて……。そのときはめちゃくちゃ嬉しかったですね。ずっと憧れていた仕事だから、失敗も含めて楽しめていたんだと思います。

ーーまさに、出版社は西野さんにとっての天職だったのですね。しかし、その後西野さんは出版社を退社しています。どんなきっかけがあったのでしょうか?

「私が本当にやりたいことは、出版社では実現が難しい」と気付いてしまったからですかね。

実は、出版社に入社したての頃は営業ではなく広告宣伝の仕事をしていました。担当は私と先輩の二人だけだったのですが、一緒に何度も企画を練り直したり、関係部署と調整を重ねたりして、より効率的に広告を運用できる仕組みを作りあげたんです。

でも、「やっと新しい仕組みで運用がスタートできる!」という矢先、私の営業部への異動が決まってしまって……。これがきっかけで、必死に作り上げてきた仕組みがお蔵入りとなりました。会社員だから異動は仕方がないことだと分かってはいたのですが、少しずつ積み上げてきたものが一瞬で崩されてしまった気がして、当時はショックを受けました。

悲しい気持ちを引きずりつつも「広告でも営業でも、大好きな環境で働けるのには変わりない」とがんばっていたのですが、あるとき偉い人から「芙美ちゃんは若い女の子なんだから、営業先でたくさんチヤホヤしてもらって」と言われて。それまでは、営業部への突然の異動も、それによって積み上げて来たものが無駄になってしまったことも、「私を必要としてもらえたんだ」と思って自分を納得させていました。でも、その理由が「“若い女の子”だから」だったと気付いて愕然としたんです。

子どもの頃から「女らしくしなさい」と言われることに違和感を抱いていました。でも本を読んで知識を得ると、いわゆる“女らしさ”は場所や時代によって変化するものなんだと、俯瞰的にものごとを見ることができる。そうやって本の自由な世界を通じて少しでも生きやすくなる人が増えれば、という思いから出版業界へ憧れを抱いていました。けれど、「女らしさ」から解放されるきっかけをくれた出版社で、いつの間にか「女らしさ」を求められるようになっていた。

この出来事がきっかけで、私が本当にやりたいことを成し遂げるには、もっと本質的なところ……世の中の固定概念を変える必要があるんだろうなと思うようになり、出版社からの転職を考え始めました。

周りの声に振り回されないための武器は“想像力”と“客観視”

TENGA広報西野芙美さん

ーーその後、西野さんは性の価値観を変えるために「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」をビジョンに掲げるTENGAへの転職を決断されています。自分の思いを実現するためとはいえ、出版社からアダルトグッズメーカーのTENGAへのキャリアチェンジには驚く方も多かったのではないでしょうか?

両親にTENGAへの転職を報告したとき、最初は反対されましたね。両親はTENGAのことを知らなかったし、「アダルト」と聞いて怪しい、いかがわしいイメージを抱いたようです。

TENGAは障害のある方の性を考える取り組みや、人には話しづらい性の悩みに向き合うサポートなども行っている会社です。そういったTENGAの事業内容やビジョンを両親に説明して、少しずつ理解してもらいました。今では、祖父の仏壇にTENGAをお供えするくらい私の仕事を誇りに思ってくれています(笑)。ただ、一方では「芙美の考えが理解できない」と言われ、連絡が途絶えてしまった友人もいましたね。

ーーTENGAへの転職がきっかけで縁を切られてしまったということでしょうか……?

そうですね。でも、許せることや許せないことは人それぞれだから……。もし今後の人生でまたどこかで交わることがあって、そのとき気が向いたら仲良くしてくれると嬉しいなって思います。

ーーすごく前向きな考えで素敵ですね。でも、友人からの絶縁宣言にショックは受けなかったのでしょうか?

もちろん悲しい気持ちはありました。でも、当時は「なぜTENGAに行くのか」を自分なりにたくさん考えて、そこに強い納得感があったので、周囲の声が良い意味であまり気にならなかったのかもしれません。

ただ、考え抜いてTENGAへの転職を決意したはずなのに、出版社での最後の日、送別会を終えて一人暮らしの家に戻った瞬間に涙が止まらなくなってしまったんです。「なんで私あんなに大好きな場所を辞めてしまったんだろう」って。色々あったけど、出版社の仕事も仲間も本当に大好きでした。そのときに、「こんなに大好きな場所を辞めるからには、次の場所ではとことんがんばらないと後悔する」と思い、覚悟を決めたんです。絶対にTENGAでいい仕事をするぞ!という思いがあったから、周りの声に左右されずにいられたんだと思います。

ーーTENGAに入社してから西野さんは、広報としてイベントやSNSでの発信も積極的に行っています。西野さんの発信に励まされる人も多い中、心ない声も届くそうですね……。そういったとき、西野さんはどう対処しているのでしょうか?

「どうしてこの人はこういう発言をしているんだろう?」と考えるとあんまり落ち込まないんですよね。

例えば、「こいつはエロい会社で働いているから何を言ってもいい」と思って失礼なことを言ってくる人がいるのですが、言っている本人がその失礼さに無自覚なことがけっこうあるんです。つまり、悪意を持っていないんですね。悪意がなければいいという話でもないのですが……。ただ、「エロい会社で働いている女=エロい女=性に奔放」という方程式がその人たちの中には無意識にできあがっていて、それを素直に受け入れた結果が失礼な発言へと繋がる。これって、社会問題とも地続きだと思っていて。「女がでしゃばってると叩かれてもしょうがない」みたいな考え方が固定概念として存在してしまうと、こういった失礼な発言がどんどん生産されてしまう。私は、こうした固定概念を変えていきたいからTENGAに就職したんだなと、客観視することで、自分自身へのダメージを軽減させているんです。

ーーなるほど……。“客観視”は西野さんが自分らしいキャリアを歩む上でのキーワードになっていそうですね。

客観視することがある種の防衛反応なんだと思います。中傷をダイレクトに受け取るのはつらいので。私は子どもの頃から、校則でスカートの長さが決まっているのとかが理解できなかったんですよね。周りの同級生は「ルールだから」と受け入れられているのに、私は明確な根拠がないと受け入れられなくて……。そこから、「なんでその決まりができたんだろう」と想像する癖がついたんだと思います。

それが今の仕事のスタンスにも結びついていて。理解の範疇を超える出来事が発生したら、まずは「この人はどうしてそういう行動や発言をするに至ったのだろう?」と理由を探しにいくんです。それが理解のとっかかりになって、対処しやすくなるのかなと。

自分をフルオープンしたら、人が周りに集まってきた

ーー普段仕事をしていると、同僚や後輩から悩み相談を受けることもあると思います。でも、相手のモヤモヤを上手く引き出せずに困ってしまった経験がある人も多いはず。西野さんはイベントなどでよくお悩み相談室を開催していますが、人の悩みを聞くときに心掛けていることはありますか?

相手の話を引き出したかったら、まずは自分の情報をオープンにすることが大事だと思っています。イベントでいくら「お悩み相談室」というタイトルを掲げていても、相談する人はすごく身構えているんですよね。目の前の人がどんな考えの持ち主なのかが分からないと「悩みを伝えても、否定されてしまうかもしれない」「軽くあしらわれたらどうしよう」と不安な気持ちになるじゃないですか。だから、まずは私が悩みや不安をどんどんオープンにしていくんです。「私デリケートゾーンが痒くて……」「このときセックスレスの危機で……」とか。そうすると、相手も「実は私も……」と話し始めてくれることが多いです。

ーー普段のお仕事でも活かせそうですね。

そうですね。例えば、他社の方や他部署の方とやり取りをするとき。仕事環境や所属が違えば、当然判断基準も異なります。チーム内で仕事を進めるときよりもすれ違いが発生しやすくなると思うんです。そうなると、お互いに「うちの方が忙しい!大変!」「どうしてすぐに対応してくれないんだ!」と身勝手な主張をしてしまい、調整がスムーズに進行しなくなることもあるじゃないですか。そういうとき、「どっちが損をするか」といった損得勘定に基づいて話すのではなく、自部署の状況をオープンに打ち明けることで、「実はうちの部署でもこういう事情があって……」って話が聞けて、そこから一気に議論が進むこともあります。プライベートでも、仕事でも、まずは自らをフルオープンにすることで一歩先に進みやすくなる気がするんですよね。

自分が“心地いい”場所を追い求めたら、理想のキャリアに近づけた

ーー西野さんにとって、働く上での原動力はどのようなことですか?

「私自身が生きやすい社会になってほしい」という気持ちが原動力ですかね。自分が“心地いい”空間を作るために働いているから、軸をぶらさずに活動できているんだと思います。それが巡り巡って「同じように生きづらさを感じている人のため」になっていくと嬉しいですよね。

ーー西野さんはどうやってご自身の“心地いい”ものを見つけたのでしょうか?

まず、自分が「気持ちいい」や「楽しい」と感じたら、それが“心地いい”ものになると思います。音楽を聞いてワクワクするとか、昼寝をしてスッキリしたとか。ごくありふれたもので良いので、“好き”なものを見つけてほしいです。好きなものを見つけることも大事なのですが、自分自身が「私はこれが好きなんだ」と認めてあげる感覚も大切。「○○が好きだけれど、私なんかより好きな人はたくさんいるから……」と遠慮しちゃう人も多いと思うので、“自分にとって心地いいものかどうかという気軽な基準で判断しちゃっていいと思うんです。

ーーありがとうございます。最後に、今の仕事になんとなくモヤモヤを抱えている人にメッセージをいただけますか?

自分がどんな状態が心地いいのかを突き詰めて考えると、理想のキャリアが見えてくると思います。

「やりたいことを仕事に」「好きを仕事に」がすべてではないと思うんです。ダラッとした生活が心地いいから、余暇時間を確保できる働き方を探す、とかでも素敵ですよね。“心地よさ”を突き詰めて考えれば、自分が本当に求めるものが見えてくるはず。

私の場合、新卒で入った会社を10カ月で辞めたときに運良く希望の業界に入れましたが、落ちる可能性ももちろんありました。でも、万が一入れなかった場合も「本を読むのが心地いい」を叶えるだけなら、別に仕事にじゃなくてもいいんですよね。定時で帰れる仕事について、趣味でたくさん本を読むという選択肢もあるよなぁと考えてました。きっとそれを選択しても幸せだったと思うし、詰まないための選択肢をたくさん用意しておくのが大事だと思うんです。

“心地よさ”を追求して、理想の生き方の選択肢を広げられると、生きやすくなるんじゃないでしょうか。

『今日、なんか嫌なことあった?』のバックナンバー

第一回:「人生はもう終わり」な私を助けてくれたのはツッコミ星人だった

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