広告やメディアの仕事に関わる人は「薬機法」という言葉を耳にしたことはありませんか?
2021年8月1日に改正薬機法が施行され、広告出稿の際にクリエイティブの審査が厳しくなったり、SNSで薬機法にまつわる炎上騒ぎが起こったりするなど、Web業界でも薬機法に対する関心が高まっています。
「気をつけなくては」とは思うものの、詳細がよく分かっていない……。
「勉強しなくては」と思ったけれど、厚生労働省の資料が長くて難しすぎる……なんて人も多いかと思います。
特にcreive読者は、まだWeb業界で働き始めたばかりの方がメイン。
そこで、今回は “Web業界で働く人が知っておきたい” 薬機法改正のポイントや具体的なNG例を解説していきます。
そもそもなんで薬機法を知っておかないといけないの?
薬機法は、正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と言います。分かりやすく言うと、医薬品や化粧品などのユーザーに何らかの健康被害が発生しないよう、品質や安全性などを取り締まるための法律です。
この薬機法には「虚偽・誇大広告等の禁止」が定められており、違反すると多額の課徴金が課されます。薬機法の対象となるものは、医薬品だけに限らず、化粧品や健康食品、美容雑貨など美容健康分野の商品が幅広く該当します。そのため、これらの広告や紹介記事を制作したり、SNSでのPRに関わったりする広告業界やWeb業界の人たちにも、気をつけてほしい法律なのです。
薬機法の具体的な注意点を、弁護士の竹森現紗先生にうかがいました。
竹森 現紗(アリシア銀座法律事務所 代表弁護士)
大手渉外事務所で、薬機法関連分野の業務に従事。現在は、企業法務や医療機関向けの法務、相続、離婚を3本の柱として事務所を運営。経営層や医療スタッフに向けたセミナーや勉強会のサポート、講演も行っている。公式サイトはこちら。
薬機法の規制の対象となる商品と、2つの注意点
薬機法では、以下の5種類の商品について、効能・効果などの虚偽・誇大広告が禁止されています。(参照元:薬機法第六十六条一項)
・医薬品
・医薬部外品
・化粧品
・医療機器
・再生医療等製品
さらに、厚生労働大臣の承認または認証を受けていない医薬品・医療機器などの広告も禁止されています。(参照元:薬機法第六十八条)
美容・健康に関する広告において、気をつけたいポイントは大きく2つです。
まず1つは、虚偽・誇大な広告をしないということ。
例えば化粧品で「シミやシワがすぐ消える」「たるみのリフトアップができる」というような、実際には美容医療でないと実現できないような効能・効果を宣伝文句に使わないようにしましょう。
2つめは、まったく医薬品として売るつもりのない健康食品や雑貨などであっても、注意が必要という点です。
例えばパッケージや広告に書かれた「便秘解消」「視力が回復」などの表現によって、消費者側に「医薬品だ」「薬と同じ効果がある」と思わせるような商品は、未承認医薬品とみなされて薬機法の罰則の対象となる可能性があります。
薬機法の課徴金の対象になる人は?
2021年8月の薬機法改正では、新たに「課徴金制度」ができました。
薬機法第六十六条第一項の規定に反する行為、つまり虚偽・誇大広告が課徴金対象行為となり、違反した場合は課徴金の対象となります。
このとき、課徴金納付命令の対象になるのは、医薬品等の取引を行う広告主です。
例えば、メーカーなどの広告主から依頼を受けた広告代理店が化粧品の記事広告を制作し、その記事広告が薬機法に違反するものであった場合、課徴金納付命令の対象になるのは商品の販売元である広告主です。
広告代理店、ライター、インフルエンサーなどの広告媒体事業者は、医薬品等の取引をしているわけではないため、原則として課徴金納付命令の対象になりません。
課徴金以外の罰則と、損害賠償の可能性
広告代理店やメディア側が薬機法に違反した場合、どうなるでしょうか。
実は、もともと薬機法には、課徴金制度が始まる前から罰則がありました。
虚偽・誇大広告や未承認医薬品の広告には、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金が定められています。(参照元:薬機法第八十五条四号または五号)
そのため、薬機法に違反するような記事や広告を作成した広告代理店やライター、インフルエンサーなどが、この罰則に該当する可能性は十分にあるのです。
また、商品の販売元である広告主から「損害賠償」を求められる場合もあり得ると思います。
体験談も薬機法の対象!「※個人の感想です」は通用しない
薬機法では、広告に使うユーザーの体験談も規制の対象になっています。
よく、体験談の下に小さく「※個人の感想です」「※効果には個人差があります」などと書かれている広告がありますが、個人の感想であろうがなかろうが、広告において認められない表現を使うことはできません。
つまり「体験談なら何を言ってもいい」というわけではないのです。広告である以上は、きちんとその基準を守る必要があります。
例えば、化粧品であれば「使いやすい」「伸びが良い」といった使用感の感想であれば問題ありません。しかし、効能・効果や安全性に関わる内容は、消費者に「誰にでも確実に効果がある」と誤解をさせる可能性があります。
そのため、たとえその体験談が本当のことでも、効能・効果や安全性に関わる内容は盛り込めないのです。(参照元:医薬品等適正広告基準4の3(5))
写真やイラストによる表現も薬機法に注意
広告の中には、極端な写真やイラストを使って消費者を惑わせたり、写真を加工してオーバーな効能・効果を表現したりするものもあります。
そのようなテキスト以外の表現についても、薬機法の規制の対象になります。
広告全体が総合的に判断されるため、キャッチコピーや説明文だけではなく、広告に使われている写真やイラストについても、虚偽・誇大広告が禁止されています。また、明示的・暗示的を問わず、写真やイラストを使って医薬品のような効能・効果を表現してもいけません。
インスタグラマー・インフルエンサーによるPR案件の注意点
インスタグラマーやインフルエンサーのPR案件でも、薬機法を守ることが必要です。
例えば、メーカーや広告代理店が、インスタグラマーやインフルエンサーに商品を提供してクチコミを依頼し、依頼を受けた側が個人のアカウントで「この商品で脂肪がなくなりました!」といったPRをした場合、薬機法に抵触する可能性があります。
ここで問題となるのは、クチコミの内容です。
インスタグラマーやインフルエンサーが、商品の提供を受けてPRをすること自体は何ら問題ありません。
ただし、PRの内容が虚偽・誇大広告であったり、医薬品ではないのに「●●に効きます」「●●が治ります」と発信したりすることは、問題となるケースがあります。
これらについては「インスタグラマーやインフルエンサーが個人でやったこと」という判断にはならず、場合によっては、広告依頼主であるメーカー側の責任が問われることもあると思います。
対応策として、メーカーや広告代理店側がPR案件を依頼するときに、インスタグラマーやインフルエンサーに対して薬機法や適正広告基準を遵守したPR表現ができるように基本的な知識をレクチャーするのが望ましいのではないかと思います。
編集後記
薬機法は、課徴金以外にも罰則があり、広告主だけではなくメディア制作者やインフルエンサーなど、広告に関わるあらゆる人に関係がある制度だということが分かりました。
近年は「コロナに効く」と表示した商品が薬機法違反で摘発された事例も多く、行政側も取り締まりに力を入れていることが伺えます。
そのため、今回の薬機法の改正を受けて、広告主やアフィリエイトサービス事業者なども、広告表現を注視するようになりつつあります。
薬機法違反の摘発が相次ぐ/コロナ関連は14件|日本ネット経済新聞
これからは、広告やメディア運営に関わる人にとって、薬機法の知識はぜひ身につけておきたいものと言えるでしょう。そうはいっても、薬機法をイチから自分で勉強するのは大変ですよね。
そんなときにぜひ活用したいのが、薬機法に配慮した広告表現を学べるセミナーや勉強会です。これらは、薬機法専門の制作会社やアフィリエイトサービス事業者などで開催されています。Web業界で働く人は、一度参加してみてはいかがでしょうか。
取材・文:久慈桃子