いつの時代も、関係性は「無駄」から生まれる

仕事をしていく中で、「この人と一緒だと気持ち良くきちんと進められるな……」と感じる人に出会うことがある。その人がチームにいると、議論がしっかりと深まっていったり、周囲とのコミュニケーションがとりやすくなったりする。人と人とが関わり合う中で、自分の感情を伝え、相手の気持ちを想像しながら、しっかりと仕事を進めていくことができる人。そんなビジネスパーソンになるためには、どんなことに意識を向ければよいのでしょうか?コラムニストであり、コンテンツプランナーのりょかちさんに寄稿いただきました。

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小学生の班分けのときからずっと、「チームの中に“話しやすい人”がいてほしい」と願う気持ちは変わらない。それくらい、話しやすい人はチームで重要な存在なのだ。

会社員時代、リモートワーク時代の「話しやすい人とは」「質問しやすい人とは」についてチームで考えたことがある。実際に、チームの中で話しかけやすい人、質問しやすい人の名前を挙げて、彼らの名前がどうして挙がったのか考えるワークショップだった。

話しやすい人が話しやすい人である理由として最も挙がってきたのは、質問のハードルを下げる一言があることだった。質問への返答の枕詞としての「質問ありがとうございます」とか「ここまで調べてくださってから質問いただいて助かります」とか。あるいは、ふとしたときに「わからないことがあるときは何でも聞いてくださいね!」と積極的に言っていたりとか。そんな、追加の一言がその人にはあるのだという。

普段、自分が使うときもそんなに気にせずに追加する一言だが、言われた方にこんなに効果があるとは思わなかった。その日から私も、何か聞かれたときや誰かに仕事を依頼するときには、できるだけ相手がコミュニケーションをとるハードルを下げる一言を添えるようにしている。

コロナ前のビジネスコミュニケーションと大きく変わった「絵文字の使い方」

“コミュニケーションしやすい”という意味ではもう一つ、周りの「話しやすい人」を真似して、コロナ禍になってから心がけていることがある。それは、絵文字をつけながら話すことだ。

元々、私は絵文字を使うのがあんまり得意ではなかった。何かキラキラしすぎているというか、過剰に愛想を振りまいている気持ちになるからだった。しかし、一転して毎日のように絵文字を使っているのが今現在だ。理由はシンプルに、“表情”を伴うオフラインの会話が圧倒的に不足しているからである。

絵文字は同じ感謝や謝罪や依頼の一言でも、多様に枝分かれする温度感や表情を伝えてくれる。同じ「ありがとう」でも、笑顔の絵文字を追加するときもあれば、絵文字で泣きながら感謝を伝えるときもある。「よろしくおねがいします」も、お辞儀の絵文字をつけて頼むときと、炎の絵文字をつけて頼むときでは伝わり方が違うのである。無味乾燥なビジネスのやり取りの中に表情を加えると、それは文脈の伝達にも繋がり、相手の安心感にも寄与する。

実際、「あの人は、絵文字が可愛くて話しやすい」「絵文字が面白くて楽しいです」と言われたこともある。

「正しい言葉」と「関係性をつくる言葉」

前提として、最も大事なことを言うと、ビジネス上のコミュニケーションで一番大切なのは、“物事を正しく伝える”ことである。Aさんからはこう読めるけれど、Bさんから見るとこれは違う意味に読める、という文章はビジネス上ではあってはならない。物事を正しく、わかりやすく伝えることが、ビジネスにおける伝達行為で最も気をつけるべきことである。

けれど、“ビジネス上の関係者とやりとりするにあたって必要なコミュニケーション”を考えるなら、もう一つ忘れてはならない要素があるのだ。それが、“関係性を構築するためのコミュニケーション”である。

在宅勤務がはじまる前から、関係構築のほとんどを担っているのが会話によるコミュニケーションだった。それは、会議の中でのやり取りももちろんだけれど、仕事以外の会話も含まれていた。むしろ、難しい話で衝突しても、会議が終われば何事もなかったかのように話せる関係性を良い仲間と呼ぶならば、その繋がりは、仕事以外の会話があるからこそ成立するのではないだろうか。座席の横を通るついでの立ち話やチームランチ、会議終わりのエレベータでの反省会。業務外の小さな会話を積み重ねていく中で、個人同士が信頼し合える関係性を作っているからこそ、私達は会議室でお互いが持つ異なる意見同士を思いきりぶつけ合うことができる。

特に、在宅勤務が増え、オンラインでのコミュニケーションが主になった今、この「小さな会話」が圧倒的に失われているように感じる。ビデオ会議はほとんどの場合、要件がなければ開催されないし、その要件が終われば、“退出”する。私達は、用事がなければ誰かと会話ができない時代に生きている。

今の環境は、些細なことを尋ねるチャンスがとても乏しい。それでは、小さなことから少しずつ、仕事がわからなくなっていく。さらに、その人の会議室以外での姿を知らないぶん、質問したい人の感情も読み取りにくくなる。小さなことから少しずつ、仕事相手のこともわからなくなっていく。そんな環境で仕事をすることは、あまりにも、あらゆることに対して不安を感じやすいのではないだろうか。

小さな仕事がわからないことや、相手の一言の意図が読み取れないことで不安に襲われるのはあまりにコスパが悪い。けれど、会議以外でのコミュニケーションのハードルがあがる今、そんな状況に陥っている人も多いのではないかと推測する。

今こそ、小さな無駄をコミュニケーションで作っていきたい

「正しく伝える」ということを意識して、必要十分まで情報を洗練したら、チームとしてうまく機能するためのコミュニケーションとして、心遣いを足し算していきたい。

オフィスでの小さな会話が関係性を生んでいたように、テキストコミュニケーションでも、小さな付加的コミュニケーションが関係性をつくる。オフラインでの雑談が消えたぶん、オンラインのコミュニケーションで、以前よりテキストで愛想や心遣いなど、関係性を作るための言葉を振りまいてもいいのではないだろうか。

「聞いてくれてありがとう」「質問してくれてありがとう」という気持ちを毎回言葉にすること。SlackのReactionやLINEのスタンプ、テキストの絵文字など、言葉以外のツールも使って「あなたの話を聞いている私は、こんな感情だよ」をしっかり伝えていくこと。

実際に私も、毎回「ありがとう」の言葉を欠かさず、絵文字やSlackのReactionを頻繁に使う人と仕事をして、「この人と一回も会ったことないのに、どうしてこんなに仕事がしやすいんだろう?」と感じた。たどり着いた答えは、コミュニケーションの過程で、私がその人から情報の内容の意味だけではなく、その人の感情や表情を受け取っていたから、ということだった。その人のメッセージはいつも、質問や会話をしてくれている感謝の言葉から始まるし、私がミスをしたときには一緒に困ってくれる。怒ってるのではなく、困っているとわかるのは、その人の語尾が「。」ではなく困った顔の絵文字だったからだ。私達はデジタルに適応した人間になりつつあるけれど、やっぱり、表情が見える相手との仕事は安心感がある。

コミュニケーションの要素は「意味」だけではない。そこには、「温度感」「表情」「感情」のようなものも存在する。それらを伝えるのは、無駄にも思える一言やテキスト以上のことを伝える小さな絵文字ではないだろうか。

“関係性はいつも、小さな無駄から生まれる”。

無駄が削ぎ落とされ、直接会うことさえ必要なく仕事ができる今だからこそ、小さな余剰のひと工夫を意識して、関係性を構築するコミュニケーションも忘れずに大切にしていきたい。

文/りょかち(ryokachii

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この記事をかいた人

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題になる。新卒でIT企業に入社し、アプリやWEBサービスの企画開発・コンテンツマーケティングに従事。現在では、若者やインターネット文化についてのコラムのみならず、エッセイ・脚本・コピー制作のほか、若年層に向けた企業のPR支援も行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎刊)。その他、朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで連載。