最近サブスクリプション型のサービスなどで、「カスタマーサクセス」という名前の部署や役職の人を耳にすることが多くなりました。
一見営業のようでもあるし、わからないときには問合せ先になってくれている人でもあるし、一体どういう役割の人なんだろう、と思う方も多いのではないでしょうか。
今回は「カスタマーサクセス」について、その定義とメリットなどを徹底解説いたします。
カスタマーサクセスは、自社の商品・サービスの質の向上と、顧客満足度の向上の両方を図ることができる考え方です。
その意味を理解し、自社の収益性向上にも役立てることもできます。ぜひ参考にしてください。
カスタマーサクセスとは?
まずは、カスタマーサクセスの定義から、注目される理由までを紹介します。
カスタマーサクセスの定義
カスタマーサクセスは「自社の商品・サービスを利用する顧客を、成功へと導くことで、LTV(顧客生涯価値)の最大化を図るための、一連の活動」のことを指します。
カスタマーサクセスを直訳すると「顧客の成功」となりますが、自社の商品・サービスを顧客が購入した後、実際にその利用で顧客にメリットが出なければ、顧客は継続的に自社の商品・サービスを使い続けることはありません。
そうすると、顧客から本来将来に渡って継続的に得られるはずである売上や利益が得られなくなったり、別の商品・サービスの追加購入や追加利用の機会も失われてしまいます。
それを防ぎLTVの最大化を図るために、商品・サービスの提供元である自社が、積極的に顧客の商品・サービス利用をサポートし、顧客の目的達成や収益最大化へと導く、という考え方が、近年徐々に浸透してきています。
カスタマーサクセスの考え方は、2000年初頭にアメリカで生まれ、日本では2005年頃導入が開始されました。
一般的に認知されだしたのは、2018年頃とつい最近で、アイティクラウド株式会社の2019年の調査によれば、カスタマーサクセスという言葉自体、ビジネスパーソンの13.7%程度しか知らず、まだ認知度としては広く知れ渡っている状態とは言えません。
しかし、外資系企業や大企業を中心に徐々に取組が始まっており、今後、さらに広がっていくことが予想されています。
カスタマーサクセスが注目される理由
カスタマーサクセスが注目される背景としては、ビジネスモデルの変化があります。
そのビジネスモデルは「SaaS(Software as a Service)」と「サブスクリプション」です。
「SasS」とはソフトウェアを必要な期間だけ、サービスとして利用できるもので、例えばオンラインストレージサービスやオフィスソフトなどは、最近「SaaS」での供給が多いです。
サブスクリプションは、定額の費用を払ってサービスを受け続けられるというものです。
例えば、AdobeのPhotoshopやillustratorなどは、ソフトウェアを購入するものからサブスク型に変わり、一時大きな話題となりました。
「SaaS」や「サブスクリプション」のように、購入時に一括して売上を確保するのではなく、定額で売上を確保し続けるビジネスモデルは、当然永続的に利用されなければ、利益の確保は難しくなります。
また、ビジネスの世界では「1:5の法則」や「5:25の法則」といった言葉があるように、一般的には、費用のかかる新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持のほうが費用的には安く済みます。当然、顧客の離脱を防げば利益が大きく改善されます。
このように、「継続的に利用されることを前提としたビジネスモデル」が拡がり、「既存顧客をより大事にしたほうが費用対効率が良い」ということがあるため、カスタマーサクセスが、より注目されるようになりました。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
カスタマーサクセスと似た言葉としてカスタマーサポートがあります。
どちらも自社の商品・サービスの利用をサポートする役割を担うものですが、大きな違いがあります。
カスタマーサポートとは
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いを明らかにする前に、まずはカスタマーサポートの役割を見ておきましょう。
カスタマーサポ―トは、コールセンターやお客様相談窓口に代表されるように、顧客からの問い合わせに対応する業務のことを指します。
顧客の商品・サービスにおける疑問や不満、課題などの問合せに対応し、迅速かつ正確に解決することで顧客をサポートする役割を担っています。
問合せは、商品・サービスの利用方法やクレームなどがあり、多くの問合せがある企業では、専用のカスタマーサポートを自社内に設置して対応しています。
最近では、第1次対応を外部発注して自社の業務軽減を図っているケースもあります。
多くの場合、企業への問合せは、顧客からの電話やメール、チャットなどで行われます。顧客は何かしらの不満があり企業に問合せをしてくるので、企業には迅速かつ正確な対応が求められています。
そして、顧客対応を成功させることで、顧客満足を向上させ、ひいては収益獲得を図ることができます。また、こうした問合せは、自社の商品・サービスの改善にも大いに役立てられるものでもあります。
さらに、「既存顧客をより大事にしたほうが費用対効率が良い」ということもあり、多くの企業ではカスタマーサポートの充実に力を入れています。
カスタマーサクセスとの違い
では、カスタマーサクセスとカスタマーサポートは何が違うのでしょうか。
簡単に言うと、カスタマーサクセスは顧客のサポートを能動的に行う活動のことで、カスタマーサポ―トとは顧客のサポートを受動的に行う活動である、ということです。
前述の通り、カスタマーサポートの出発点は、不満を抱いた顧客からの問い合わせです。顧客からの問い合わせに、いかに迅速かつ正確に答えるか、ということが求められていました。一方、カスタマーサクセスはそれにとどまりません。
カスタマーサクセスにおける自社の商品・サービスを利用する顧客を成功へと導く活動とは、顧客に対し計画的に顧客満足度を高めるべく、積極的に自社の商品・サービスの利用を働き掛けることを指します。
例えば、顧客が利用開始直後に使用方法がわからなければ、担当から基本的な使い方をレクチャーをしたり、使用に慣れて、より高度な使い方をしたいときに、そのための商品・サービスを紹介します。
つまり顧客の理解レベルに合わせ、うまく伴走しながら自走支援を行っていきます。
カスタマーサクセスは、自社の商品・サービスの利用により顧客の成功に寄与するために率先して行動することが求められています。
カスタマーサクセスの役割とメリット
それではカスタマーサクセスの役割とメリットを具体的に見てみましょう。
顧客の解約率を下げる
カスタマーサクセスの役割の第1番目ともいえるのが、顧客の解約率を下げることにあります。
SasSやサブスクリプションのビジネスモデルでは、解約率が低いほど得られる利益が大きくなり、アップセルやクロスセルで収益の一層の拡大を図る機会を得ることができます。
言い方を変えれば、顧客の能動的なサポートであるカスタマーサクセスは、継続利用を促し解約率を下げるための活動であるとも言えます。
カスタマーサポートにより解約率を下げるための具体的な活動とは、例えば次のようなことがあります。
まず、解約しようとする顧客に対し、現在の利用の見直しをすすめ顧客が満足するプランを提案し乗り換え利用を促します。また、あまり商品・サービスを活用できていない顧客がいれば、新たな活用事例などを提示し、利用するメリットを見出してもらって積極的な活用をしてもらい解約率を防ぐということも行います。
さらに、すでに解約を決意している顧客に解約理由をヒアリングし、現状の商品・サービスの改善を図るということも、それ以後の顧客の解約を防ぐ、重要な方策です。
解約率が高いということは、自社の商品・サービスによって顧客が成功体験を得られておらず満足していない何よりの証拠です。
これを積極的に下げるための活動が、すなわちカスタマーサクセスであるとも言えるでしょう。
顧客のLTVを最大化
カスタマーサクセスで解約率を下げることで、LTVの最大化を図ることができます。
LTV(顧客生涯価値)とは、1人の顧客から将来に渡ってもたらされる利益のことで、当然継続して利用していくことで最大化が図られます。LTVは以下にて算出されます。
つまり、顧客の単価を上げ、購入の頻度を高め、契約継続期間を延ばすための具体的施策がカスタマーサクセスにおいて行われるべき活動です。
購入単価を上げる施策とは、具体的にはアップセルやクロスセルのことです。
顧客から得られる単純な収益を上げるものを指します。購入の頻度とは、追加購入や買い替えの案内など顧客への働きかけを指します。当然押し売りはNGなので、顧客の成功に資するような提案でないといけません。
契約継続期間はすなわり解約を防ぐことなので、前述の通り、活用方法の提案や顧客の解約理由の把握と商品・サービスの改善が具体的な活動内容となります。
関連記事:「LTV」とは?計算方法から改善策を学んで顧客価値を最大化
商品・サービスの改善・向上
解約率の低下やLTVの最大化を通じて、カスタマーサクセスの活動を実行していくと、自ずと商品・サービスの改善にもつながっていきます。
顧客に対する積極的な支援活動であるカスタマーサクセスを通じて、顧客からの商品・サービスに対する意見を聞く機会も多くなってきます。
そこでは自社では気づくことができなかった商品・サービス、あるいはフォロー体制の問題や課題などの発見もでき、商品・サービスを改善させることもできます。
顧客側にとっても、サービス提供者に直接フィードバックを伝えることができ、早期の商品・サービスの利便性向上にもつながり、満足度の高い商品・サービスを利用できる可能性が高まります。
つまり、カスタマーサクセスをきっかけに、自社と顧客両方に良い満足を生み出すことができるようになるのです。この良いサイクルにうまく乗せられると、事業は大きく成長していくことになります。
カスタマーサクセスの施策実行上で設定すべきKPI
カスタマーサクセスを成功させるためには、KPIを設定するべきです。
ここでは、カスタマーサクセスにおいて意識されるべきKPIを紹介します。
継続率(リピート率)
継続率とは獲得した新規顧客の内、リピート利用した顧客の割合を指します。
この継続率が高ければ高いほど、顧客満足度が高いと証明され、結果LTVは最大化されますので、まずKPIとしてチェックし続けなければならないものとなります。
解約率
カスタマーサクセスにおいては、継続率を向上させることが重要ですが、裏を返せば解約率を低下させることにもなります。
極端に言えば、新規営業を全くかけなくても解約率が低ければ収益は確保できます。
解約率には2種類あります。
- カスタマーチャーン→顧客解約率(解約数÷契約顧客数)
- レベニューチャーン→収益解約率(サービス単価×解約数)÷売上)
なお、SasSやサブスクリプションの場合は、売上に解約がどの程度影響を及ぼすのかが重要なので、レベニューチャーンのほうがよく使われます。
アップセル率・クロスセル率
継続利用が促進され、解約が抑制された状態で、さらに収益を拡大させていくには、アップセルやクロスセルが重要です。
よって、アップセル率やクロスセル率もKPIとしてチェックするべき指標であると言えます。
このKPIが目標以上を達成していれば、顧客に対する積極的なサポート活動であるカスタマーサクセスが、有効に機能している、とも言えます。
なお、アップセルやクロスセルをやりすぎると、解約率が上がることも考えられるので、顧客の動向を注視する必要があります。
NPS
NPS(ネットプロモータースコア)とは、顧客の商品・サービスに対する愛着や信頼など顧客ロイヤリティを測る指標となります。
顧客ロイヤリティはなかなか数値化することが難しいものですが、NPSでは以下2点の質問を行い、スコアリングします。
- 「あなたはこの商品(サービスやブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどのくらいありますか?」(0~10点評価)
- 「点数の理由は何ですか?」
NPSの高い顧客は商品・サービスに愛着があり、長期的に利用してくれる顧客が多いと言われています。そのためカスタマーサクセスでは、NPSをKPIとして活用することもあります。
カスタマーサクセスでビジネスを成功に導こう
今回は「カスタマーサクセス」について、その定義とメリットなどをしてきました。
顧客と共に伴走しながら積極的にサポートを行っていくカスタマーサクセスは、顧客にとってもうれしい活動であり、自社と顧客がWin-Winの関係にすることができる活動とも言えます。
商品・サービスを向上させ、事業を継続的にスケールさせていくために、ぜひ取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。