creiveの『今日、なんか嫌なことあった?』は、業界で活躍している“あの人”へのインタビューを通じて、仕事で感じるモヤモヤとの向き合い方を探るインタビュー連載です。「自分っていつまでも成長しないな」「人間関係が辛くてしんどい」こんな風に思い悩みながら日々を過ごしている人へ。今回お届けするのは、トイアンナさんの言葉です。
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入社するまでは、若いうちから複数のプロジェクトを引っさげてバリバリ活躍する自分の姿を想像していた。なんなら、数年で管理職登用もありえるかも?なんて期待もしていた。でも、実際に入社してみると、複数のプロジェクトどころか企画書ひとつまともに書けなくて上司に怒られる毎日……。
「今日も仕事で嫌なことがあったな」
あなたが抱えるその悩み、いまや大活躍中のあの人たちも経験してきているんです。
今日お話を伺うのは、現在ライター・マーケター・起業家とマルチに活躍するトイアンナさん。世界最大の消費財メーカー、P&Gへの入社からスタートした彼女のキャリアは、意外にも苦難の連続だったのだそうです。
トイアンナさんのお話から、仕事のモヤモヤを吹き飛ばすヒントを探してみませんか?
<トイアンナさんプロフィール>
フリーライター。慶應義塾大学法学部卒業後、外資系企業にてマーケティングを約4年担当。業務や独自の活動で「キャリア」「女性のヘルスケア」「結婚」などをテーマに1000名以上からヒアリングを重ねる。生理期間の女性が抱く心の揺れをブログに書いたことがきっかけとなり、ライターとしての仕事を始める。現在、複数媒体で連載中。著書に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』(文庫ぎんが堂)など。
上司に怒られ、帰宅は深夜。そんな毎日でも同期の存在で乗り切れた
――トイアンナさんは新卒でP&Gに入社されていますよね。P&Gといえば就職ランキングでも常に上位の企業で、入社のハードルは相当高かったと思います。実際に働いてみていかがでしたか?
私が就活をしていたときは、就職氷河期と言われていた時期でした。そんな中、P&Gから内定をいただいたので、「私は仕事ができる人間なんだ!」って勘違いしちゃったんです。まだ入社すらしていないのに(笑)。
実際に入社してからは、自分の仕事のできなさに絶望する毎日でした。私が最初に取り組んだ仕事は、担当する商品の売上などを共有する週報の作成。数値をまとめてレポートにするだけの作業にも関わらず、10回以上リテイクをくらったんです。入社前に高く伸ばした鼻は、完全にへし折られましたね……。
P&Gは世界各国に事業所があり、従業員数は13万人にも上ります。様々な文化・価値観の人を束ねるため、新人教育の体制が徹底的に整備されているんです。裏を返せば、この体制のもとで仕事が回せないと、自分に能力がないことの証明になってしまう。
そんな環境のもとで、できていないことを論理的に詰められると「私がすべて悪い。私はいないほうがいい」という思考になってしまうんですよね。さらに当時はすごく激務で、朝の8時に出社して、夜中の2時にやっと仕事が片付くような毎日を送っていました。
入社当初はやる気に満ちあふれていた人でも、数カ月後には心が折れて辞めてしまう……。なんてことが後を絶ちませんでした。
――たしかにその環境では心も体も健康を保つのが大変……。でも、トイアンナさんは2年間勤務されていますよね。どうして耐えられたのでしょうか?
同期の支えがあったからですね。激務過ぎて家にまともに帰れなかったので、同期同士でシェアハウスをしていたんです。
仕事で嫌なことがあっても「ねぇ聞いてよ。今日こんなことがあってね……」と話ができる人がすぐ近くにいたので、あまりストレスを抱え込まずにいられたのだと思います。
衣食住の乱れは自分の限界が近いサイン
――P&Gを2年経験したあと転職されていますよね。激務だった1社目を乗り越えた経験から、2社目はスムーズに馴染めたのではないでしょうか?
それが、1社目よりも2社目のほうがメンタル的にしんどいことが多かったんですよね……。
――意外な答え!どうして2社目のほうがしんどいと思ったのでしょうか?
社風がP&Gと180°違ったんです。
たとえば、1社目はプロジェクトを立ち上げるときにはまず目的や数値を明確にする環境でしたが、2社目はそれがなかった。不思議に思って上司に尋ねると「目的や数値を明確にするなんて、相手に失礼。察して動いて」と言われて……。
1社目では褒められていたことをすると2社目では叱られるし、1社目で叱られていたことをすると2社目では褒められる。トランプで大富豪ってゲームありますよね。まさしくあれの“革命”が起きてしまって、頭の中が大混乱していました。
勤務時間でいえば、9時に出社して5時には退勤できたので、一般的に見ると転職後のほうが人間らしい生活が送れそうだと思いますよね。でも、2社目の仕事の進め方にどうしても適応できなくて、文字通り適応障害ぎりぎりまで追い詰められてしまったんです。
――両極端な社風に苦しんだんですね……。
そうですね。1社目は目的や数値を明確にする文化があるからか、働いている人もロジカルな方が多くて。たとえば提出した企画書のフィードバックを受けるとき、
「提出してくれたこの企画書さ、企画概要の1行目と4行目でロジック破綻しているよね。結局1番伝えたいことは何なの?そこから考え直して再提出して」
と言われる。
一方で、2社目は感情論でお話される方が多かった。1社目ではどんなに理詰めされても耐えられたから「私って強メンタルの持ち主かも」と思っていたのですが、2社目で心が折れたことで勘違いしていたことに気付きました。詰められ方にも相性があるんですよね。
――このときはどうやって乗り越えたのでしょうか?
外食で心を満たしていましたね。本当に辛かった時期は、週3くらいでフレンチを食べに行っていました(笑)。
メンタルがしんどいときって、湯船に穴が空いている状態に近いと思うんです。水を注いでも穴が空いているからなかなか溜まらない。同じように、ちょっと気分転換をしたくらいでは隙間からどんどん幸せがすり抜けていってしまって、気持ちは沈んだまま。
だから、穴から出ていく幸せを凌駕するくらいの圧倒的な幸せをぶち込むんです。私の場合はそれが外食でした。「限界が近いな」と感じたら、とことん好きなことをして自分を維持していましたね。
――トイアンナさんはどうやって自分の限界を見極めているのでしょうか?
「衣食住」のどれかが乱れたら限界が近いと思っています。
私の場合は、お風呂に入るのが面倒になると限界が近いサイン。「そういえば最近いつお風呂に入ったっけ?」と思ったら、即座にすべての予定をキャンセルして好きなことに没頭するなり、休むなりしています。
自分の限界が近いと分かっていても、予定をキャンセルするのに抵抗がある人もいますよね。でも、聖火リレーだってキャンセルできるって分かったじゃないですか(※)。あれより重要な予定ってなかなかないですよ。キャンセルできない予定なんて、この世に存在しないはずなんです。
※2021年オリンピック開催に伴う聖火リレーランナーのキャンセルが相次いだ。
それに、一度限界を突破してしまうと、そこからしばらく再起不能になる人も少なくありません。限界前なら、数日から数カ月の休息で回復できることもある。自分にとっても周りにとっても後者がいいですよね。
自分を俯瞰して見れると、最悪のときも這い上がれる
――お話を聞いていると勇気がもらえます。ここまで自衛する術を身に付けていれば、キャパオーバーしなさそうですね。
それが、実は私、昨年鬱になったんです。数カ月の間で夫を失くしたり、訴訟を起こされたりと、心身にダメージを負う機会が多かったのもあり……。
――そのような状況に対してトイアンナさんはどのように向き合ったのでしょうか?
私、自分のなかに「ツッコミ星人」を飼っているんですよ。
心が折れているときって、どうしても感情がネガティブな方にいってしまうんですよね。「仕事でもプライベートでも周りに迷惑をかけているダメな私……」となってしまう。
そんなとき、「あんた夫がいなくなってただでさえ辛いときに、訴訟まで起こされているんだよ?この状況で倒れないほうがおかしいよ。今はゆっくり休もう!」と冷静にツッコミを入れてくれるもう一人の自分に助けられたんです。
――ツッコミ星人……! どうやって飼えるようになるんですか?
客観的に冷静な意見を言ってくれる人と友達になるといいと思います。悪いときには叱ってくれて、良いときには褒めてくれるような人がいいですね。
自分を俯瞰して見てくれる相手に普段からツッコミを入れてもらって、徐々にそれを内在化していくんです。そうすると、もし心が折れてネガティブな思考に陥ったときでも、
「悪いことばっかり。私の人生はもう終わり」
「そんなわけないじゃん。ちょっと休んでまた一から出なおそ」
といった具合で脳内会議ができるようになります。
――自分を俯瞰してみてくれる友人ってなかなかいないと思うのですが、トイアンナさんはどこで出会ったのでしょう?
同業他社で働く人たちの交流会です。同じようなキャリアを歩んできているからか、事情を汲んだうえで客観的に私のことを見てくれる。それに、他社の人なら社内の人には相談しにくいことも話せるメリットもあります。たとえば「職場の先輩からいじめられていて辛い……」とか。同じ職場の人だと相談しづらいじゃないですか。
また、新卒でベンチャーとか少人数の会社に入った場合、同期がいないなんてこともザラにあります。でも、外部のコミュニティを活用して“同期のような存在”を作ることもできるんです。
自社では「できない人」も、他社では「できる人」かもしれない
――若手のうちは自分の職場に慣れるのに必死で、外にコミュニティを作ろうってなかなか思えないかもしれないですね。
社会人経験が数年の若い人ほど会社の外にコミュニティを作ってほしいです。
新卒のときって、自分の会社の評価軸しか知らないじゃないですか。だからその会社で「できない人」と判断されてしまうと「自分はダメなんだ」と思ってしまう。
でも、実は世の中にはたくさん会社があって、それぞれが異なる評価軸を持っているんですよね。だから、もし今いる会社で「できない人」の烙印を押されていたとしても、別の会社に行くと突然違う評価を受ける可能性がある。会社の外にもコミュニティを作って、外ではどんな人が評価されるのかを知ってほしいです。
コミュニティを活用するほかに、転職エージェントに相談するのもおすすめですね。「今働いている会社はこんな社風なんだけど、真逆の社風の会社ってありますか?」と聞いてみると面白いと思いますよ。
――すぐに転職を考えていなくても、転職エージェントを利用しても良いのでしょうか?
私は、エージェントとは定期的に面談をすることをおすすめしています。自分が理想とする仕事やポジションの募集が常にあるとは限らないからです。限界近くまで追い詰められ、後がない状態になってから相談すると、希望と沿わない転職を迫られるケースもあります。
心も体も元気なうちにエージェントを活用することで、自分の希望する働き方や職種に沿った募集が出てきたときに、すぐに動けます。定期ミーティングをするような気持ちでエージェントに頼ってみてほしいですね。
――ありがとうございます。最後に、今いる会社で「仕事ができない」「自分の成長を感じることができてなくて辛い」と悩んでいる人にメッセージをいただけますか?
私は成長って「その会社に適応していくプロセス」だと思うんです。だから、「自分の苦手とすること」ができるようになるのがその会社の求める「成長」である場合、うまく適応できずに辛い思いをするはず。
苦手なことを突き詰めようとしても、努力の量に対して得られるものが少ない場合がほとんどなんですよね。本当は人一倍努力をしているのに、会社からは「仕事ができない」「成長が見られない」と判断されてしまいがちです。
逆に言えば、得意なことが活きる会社だと「仕事ができる」「成長が早い」と評価されやすくなります。自分はもちろん、会社にとっても嬉しいですよね。「自分が得意なことがわからない」と思っている人も多いとは思いますが、まずは「自分にとってはたいしたことはないのに、やたらと周りから褒められること」を意識してみてください。それが自分にとっての得意なことである可能性が高いです。
それから、今いる環境にとらわれずに、いろんな場所に行っていろんな価値観に触れてみてください。別の会社の基準だと、あなたも「できる人」になるかもしれません。
編集後記
creiveで始まった新連載『今日なにか嫌なことあった?』の第一回のゲストとして出演していただいたトイアンナさん。「成長とはなんですか?」という質問に対して「その会社に適応していくプロセス」と言い切る姿が印象的でした。トイアンナさんの言葉からは、「変化することに対する勇気」をもらえたような気がします。もしも、ひとつの場所でダメな自分に出会ってしまったとしても、それが自分のすべてではない。また別の場所に“成長できる自分の姿”があるはず――そう思えたインタビューでした。
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